伊勢内宮前 おかげ横丁

おかげ講習④ 四日市萬古焼 醉月陶苑 醉月さん きし代さん

 

今あるものから少しでも違うことを取り入れてみようと心がけています。感性を身につけて、時代に評価されるようにやっていきたい

「一服のお茶で互いに心が通い合い、心の渇きまで潤してくれます。熱いお茶でも一服、とそれぐらいの時間を持てる我々でなければいけないと思うのです」きし代さん

醉月さんーーー
 有田焼や瀬戸焼、各地の焼き物は地名を冠にしておりますが、萬古焼はどこのものとわからない焼き物でした。昭和54年に代表的な地場産業とし国の伝統的工芸品に指定されたとき、地名の四日市を頭につけたのです。昨年は萬古焼の祖である沼波弄山(ぬなみ・ろうざん)の生誕300年の年。沼波家の屋号が「萬古屋」であり、弄山自身の好きな言葉でもあった「萬古不易」あるいは「萬古」の印を焼き物に押しました。地名も名前も入れないのは珍しいことですが、その言葉のように、いつの世までも栄え、永遠に作品が残っていくようにとのことでしょう。晩年は江戸へ出て、朝日町の土を運び込み、つくったものは「江戸萬古」として人気を集め、今では萬古の中でも弄山がつくった作品のみ「古萬古」と呼ばれます。弄山没後に萬古焼は一度途絶えますが、40~50年後、再興しようという動きが出て、朝日町の山で、森有節(もりゆうせつ)が開窯。これが四日市萬古に最も影響を与えた「有節萬古」です。分解できる木型での急須づくりを考案し、板状の土を型に貼り付けるため、薄くつくれる。その職人技を楽しみ、急須の内部に龍の陰刻をほどこしたり、取っ手に「遊環(ゆうかん)」をつけたりと飾りが多く、洒落たもので珍しがられ、それを技として競ったのです。また四日市には東海道が通り、港もあり、交通の便がよいので、どんどん売れました。また有節がとりわけ賞賛されたのがピンク色の腥臙脂釉(しょうえんじゆう)です。焼いている時の煙の出方を見に行った産業スパイもいたという話も伝わり、地場産業としてすばらしいものをつくっていたのです。
醉月陶苑では急須を代々やっています。祖父が郵便局長を退官後、型萬古でつくり出したのがはじまりです。お酒が大好きで、趣味は俳句。その号を印したのが「醉月」でした。2代目は丁稚奉公で窯屋(かまや)に入り、轆轤(ろくろ)をしだしたそうです。3代目のわたしといえば、家の仕事が全く面白くなく、中学のときは魅力を感じなかったですね。転機は高校のときにつくった皿が県展で入選。その結果に自分の好きなものが見つかったと思いました。その体験があって、やりがいを感じ続けていますが、おかげ横丁さんには、最初、女房のきし代が声をかけてもらったんです。

きし代さんーーー
 嫁いでから、どっぷりと50年近く、萬古の世界に育てていただきました。伊勢志摩サミットでは、首脳陣、また配偶者の夕食会に、醉月がつくった高杯(たかつき)が使用されました。昭和、平成と歩んできて、振り返ったときに、続けてきてよかったなと思えます。継続すればこそ、大きな力を得ることができます。二人しかいない息子が、醉月の火を消すことなく、二人とも陶芸家になりました。おじいさんの道具で遊んで、その場で同じ空気を吸い、まわりの人脈に育てていただいたことが大きいように思います。急須など陶器の感触を味わって暮らしてきたことも、影響があるでしょう。孫にたのまれて恐竜の盛絵を施した急須をつくったことがあります。4歳の子が幼稚園から帰ってくると、上手にお茶をいれるようになり、ちゃんと両手で持つクセが付いています。環境は大切かなと思います。各家庭に必ず急須はありましたが、今ではないおうちが半分くらいだそうです。これではいかんと思います。急須に茶葉を入れて、お湯を注ぎ、ゆっくり葉っぱが開くのを楽しんでお茶を飲む。それぐらいの時間を持てる我々でなければいけないなと思うのです。一服のお茶で互いに心が通い合い、ぎくしゃくしている心の渇きまで潤し、人間関係を癒してくれます。熱いお茶でも一服いれましょうか、とゆったりとした時間つくってみてください。

 

「時代にあったものをつくり、先々に繋げられるものが伝統。技術があるから急須はつくれますが、買って評価していただけるようにするのも大切な仕事です」醉月さん

醉月さんーーー

 萬古焼の作り方の基本は轆轤に木型、一番新しいのは鋳込み(いこみ)です。鋳込みや機械成形では量産品になり、生産の半分は海外へ。中国で安いものがでてきたので価格で商売をしていたところはなくなりました。量産は産業として大事ですが、値段で海外に負けます。そうやって萬古は質のいいものだけが残ってきました。三重県は全国三番目のお茶の生産量を誇り、萬古焼も生産。身近なところに、身近なものがあるのです。萬古焼の急須には百年の歴史があり、主力商品。土鍋も四日市が一番力を持っていますが、製造は昭和の時代で、まだ伝統的工芸品に入っていません。急須は日本のお茶文化、鍋は日本の料理文化ですが、いいものであれば海外でも通用します。また海外で売れるようになってきましたが、ただ、いいものをつくるだけでは売れていかない。自分たちでそんな場所を見つけて、リピーターを増やしていくのも、いまの時代には必要です。盛絵は四日市萬古の特徴の一つですが、非常に時間が掛かります。そういった手間をかけたことに魅力を感じてもらえないと、販売は難しい。単価の問題もあり、萬古の技術を残さないといけませんが、売れていかないと残らない。ただ伝統は継承だけではありません。その時代にあったものをつくりこんで、先々に繋げられるものが伝統です。昔のものをそのままではなく、時代に合ったものを評価していただくのが重要。技術があるから急須はつくれますが、みなさんに買って評価していただけるように考えるのも、普段の我々の大切な仕事です。息子の潮も茶こしを抜いています。一般的には金網の茶こしですが、手間暇かけて穴をあけるのも一つのこだわり。なぜそんな急須を続けているのかというと、お茶がおいしくなるからです。むかしは寒い地方が急須の消費地。そうやって飲んでいただく地方の方から、萬古で飲むお茶はうまいと評価をもらっておりました。試験所が研究すると、1ミリほどのお茶の層が急須の中にできていました。渋み成分を吸着させることがわかったのです。

 

「感性も技も積み重ね。今以上のレベルアップをしていきたいと、確実に一つひとつ取り組み、レベルの高いものを目標にしています」醉月さん

◆究極の美意識とは?目標は過去なのか、未来なのか、どこに定めるのか?

醉月さんーーー

 その時代時代に当然目標があり、一つずつ向かっていくのが大事。昔のいい急須をめざすのか、使いやすい急須なのか、あるいはデザインで将来を見越した急須を追求していくのか、人によっていろいろな考えが生まれる。まずはそれを自分が選ぶこと。そして、確実に一つひとつ取り組み、レベルの高いものを目標にしています。感性も技も積み重ね。今以上のレベルアップをしていきたいと先を目指し、常に挑戦を続け、進んでいこうと思います。

きし代さんーーー
 醉月は75歳にして挑戦し、今年になってからも技術的に向上し、そんな醉月の才能を再発見しています。この年になっても健康であることの証ですね。心が病んでいると無理ですから、醉月窯の調和も大事。現場の雰囲気が作品を左右することでは困るので、わたしはそこにエネルギーをつかっています。絵の具の調合で後継者を育成し、完成度の高いものを教えられるよう、研究しています。またわたし自身は有節が最高の目標。追いつけ追い越せ、まだかなと、やっています。

◆職場も家庭も一緒。夫婦喧嘩はありますか?

醉月さんーーー

 作品をつくるの上では、好みもあり、ぶつかることもあります。しかし美しいものは美しいという共通した認識があります。

きし代さんーーー

 意見の相違で言い争いはしょっちゅうですが、それを喧嘩と受け止めず、意見の交換ですね、互いに謝り合いもありません。醉月は醉月、わたしはわたし、息子もそれぞれにやるべき方向が定まっていて、あまり人のことをかまっていられないのです。これからも醉月に付いて、そして健康管理をしながら、やっていきたいと思います。

◆これからの時代に何をすべきか、変えるべきことはありますか?

醉月さんーーー

 変える判断は難しい。一番は多くのものをみて、自分なりに評価する、判断する力をつけること。作家と職人の違いは、職人は最高に長けた技を持ち、その職人の上に感性があって、自分のものをつくれて初めて作家なのかなと思っています。今あるものから少しでも違うことを取り入れてみようと心がけています。いつも挑戦していますが、発想が100%ヒットするわけではありません。ものにならないことも多いのですが、追求していくことも大事。いいものの感性を身につけて、今の時代に評価されるようにやっていきたい。萬古、お茶、伝統的なもの、この業界を守っていくために先を目指してつくっていくのがわたしたちの努め。甘んじていられません。

 


(C) Copyright 2000-2018 ISEFUKU. All rights reserved.
pocket line hatebu image gallery audio video category tag chat quote googleplus facebook instagram twitter rss search envelope heart star user close search-plus home clock update edit share-square chevron-left chevron-right leaf exclamation-triangle calendar comment thumb-tack link navicon aside angle-double-up angle-double-down angle-up angle-down star-half status